鹿沢温泉郷は、群馬県吾妻郡嬬恋村の最西端、田代地区の湯尻川沿いにあります。源泉である旧鹿沢温泉は湯ノ丸山の中腹である標高1525ｍに位置し、開湯に関する逸話や伝説が数多く残る歴史ある秘湯です。

湯治場としては江戸から明治時代にかけて発展し、当時ここは東御市の祢津領であったため信州側からの湯治客が多く訪れ、「山の湯」と呼ばれていました。この山の湯へ向かう約12kmの「湯道（ゆのみち）」には、旅の安全を願って合計百体の観音様が１町（約110m）ごとに祀られています。今回はその100番目にあたる百番観音が祀られている「鹿沢温泉 紅葉館」をご紹介します。

日本温泉協会認定オール5の名湯、紅葉館の温泉で“整う”

「鹿沢温泉 紅葉館」は明治2年（1869年）創業、鹿沢温泉は当時数件の旅館や分校があり大変賑わっていましたが大正7年（1918年）の大火で温泉街は焼失、この地では紅葉館のみが再建し、他の旅館は4キロ下がった今の新鹿沢温泉に引湯を行い新たに発足しました。紅葉館は湯本として、新旧合わせた鹿沢温泉郷の源泉を守り続けたのです。

紅葉館の源泉「雲井の湯」は敷地内から湧出しており、鹿沢温泉郷の5軒の温泉施設（休暇村嬬恋鹿沢、鹿鳴館、鹿の湯つちや、ホテル鹿沢真田屋、とべの湯）へ引湯されています。マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉という泉質で効能が多く、源泉温度47.5度のかけ流しの温泉です。また、成分が濃いため、お客さまから「ここのお湯は重くて力強く、よく温まる。」と評判です。

紅葉館の当主、小林昭貴さんは5代目。この歴史ある宿で、お風呂だけは手を加えることなく大切に引き継いできたとのことです。2代目が設計したという湯船は、より新鮮なお湯を楽しんでもらうために自然湧出のお湯が1時間で循環し入れ替わる大きさに工夫されています。

お湯は灰青色のにごり湯で、光の入り具合や時間帯によってお風呂の色が変わるという魅力があるそう。浴室にはシャワーやカランを付けておらず、洗い場に打たせ湯（「竜宮の湯」という別の源泉を使用）が流れている様子はとても風情があり、多くの方の心を掴んできました。

幻想的な空間で最上級のお湯に浸かっていると、思わず時を忘れ、身も心も癒されていくことでしょう。

板前の御主人がふるまう絶品のお食事

5代目当主の小林さんは、大阪の料亭で修業された板前さん。

地元で採れた季節の野菜や川魚、群馬県特産の赤城牛など地産地消にこだわった創作和風料理を楽しむことができます。特におすすめなのが川魚料理。イワナや群馬県特産の最高級のニジマス“ギンヒカリ”、信州サーモンなど、この地ならではの川魚料理が楽しめます。「湯尻川で採れる魚は清らかな渓流の冷たい水で育つので、身が引き締まって美味しいですよ。」と話してくださいました。

また、嬬恋の名産品である新鮮なキャベツを使ったキャベツサラダは、あえて一度湯通しをすることでキャベツのシャキシャキの食感や甘味が増し、キャベツの美味しさを再発見したような驚きの一品。

夕食は約10品目のコース料理になっており、この土地でしか味わえない食事を堪能することができます。

昔と現代が融合した趣のある本館

2013年にリニューアルした本館は、モダンで趣のある木造りの建物。

館内は天井が高く、開放的でとても明るく、特に食堂は外の川に沿ってガラス張りになっており、とても心地良く過ごせる空間です。

客室は、本館5室に旧館5室。本館のお部屋は木の温もりが感じられる造りで、敢えてカーテンを付けてないので景色や自然光を楽しむことができます。

さらに外の川のせせらぎや、鳥のさえずりが聞こえ、心地よい静かな時間を過ごすことができます。そのため、紅葉館を訪れるお客さまは旅館内でゆっくり過ごされる方が多く、読書を目的とした滞在や、最近ではワーケーションで利用する方もおられるとのことです。

鹿沢温泉でのおすすめの過ごし方

「日本百名山の一つである四阿山（あずまやさん）、浅間山、湯ノ丸山への登山がおすすめです。6月中旬から７月上旬に湯ノ丸山の斜面に咲く国の天然記念物のレンゲツツジ群落は見事で、自然を観察しながらの高原散策をするのも気持ちいいですよ。冬は鹿沢スノーエリアや湯の丸高原スキー場が近くにあるので、スキーもおすすめです。」と小林さん。紅葉館では日帰り入浴の営業もしているので、その帰りに温泉を利用するのもいいですね。また、紅葉館はASAMA AREA SIX「浅間山麓サイクリングツアーマップ」のコースである県道94号東御嬬恋線沿いにあるので、Eバイクでの散策の途中に寄ってみるのもおすすめですよ。

高原の自然を楽しみ、極上のお湯に癒された後に心づくしのお食事をいただく。心身ともに“整う”贅沢なひと時を過ごしに、「鹿沢温泉 紅葉館」を訪ねてみてはいかがでしょうか。