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軽井沢町・追分宿で、郷土の歴史文化と文学を学ぶ

「浅間山麓サイクリングツアーマップ」のコースとなっている、軽井沢町の千ヶ滝地区から小諸市の菱野温泉付近まで、標高約1000mの地点を結ぶ「千メートル林道」。そのコースにほど近い軽井沢西地区にある「旧中山道・追分宿」は、歴史ある有名な宿場です。

宿場通りには江戸時代の建物も残り、当時の宿場の雰囲気を残しながらもお洒落なお店が並ぶ、観光に人気のスポットです。また、「諏訪神社」「浅間神社」と由緒ある2つの神社や曹洞宗のお寺「泉洞寺」など、江戸時代以前の歴史的な建物を巡るのもおすすめです。今回はそんな追分宿通りから、この地域の歴史文化と文学を学べる2館の施設をご紹介します。

追分宿の歴史

浮世絵_木曽街道・追分宿浅間山眺望

江戸時代、軽井沢には軽井沢宿、沓掛宿、追分宿の3つの宿があり、これらは浅間山の南麓・標高約1000mに位置したことから「浅間根腰の三宿」と呼ばれていました。追分宿は中山道六十九次のうち江戸から数えて20番目の宿場町で、北国街道との分岐点にあったため、江戸時代には交通の要として大変繁栄しました。

宿場通りの西端にあたる「追分宿」の交差点から西に50mほど歩いた所に、「追分宿の分去れの碑」があります。こちらの碑は、右へ進めば、北国街道姨捨山の「田毎の月」で知られる更科や越後方面へ。左へ進めば中山道で京都へ向かい、そこから桜の名所「奈良吉野山」へ向かう事から「さらしなは右 みよしのは左にて 月と花とを追分宿」の句が刻まれています。その他に6基の江戸時代の石造物が当時のまま残されている名所で、軽井沢町指定文化財になっています。

追分宿の歴史を遡ると、街道としての歴史は飛鳥時代〜平安時代に整備された官道「東山道」から始まっています。江戸時代の最盛期を経て、明治時代には宿駅制度の廃止や鉄道の開通によってかつての賑わいは失われていきましたが、当時の趣のある建物や自然豊かで静かな環境から多くの文化人に愛され、歴史と文化の両面で名の知られた宿場町となっています。

 また、軽井沢の三宿を往来した馬子たちの仕事唄として生まれた「追分節」は、三宿の旅籠の宴席でも唄われるようになり、各地へ伝播し、人気の唄となりました。現在も民謡として唄い継がれている「追分節」の発祥の地として知られています。

追分宿郷土館で、追分宿の歴史と地域の文化を学ぶ

追分宿郷土館は、国道18号線「追分」交差点から旧中山道に入り、追分宿町営駐車場から山側に50mほど歩いた所にあります。昭和60年の開館、四季折々の景色が楽しめる広い庭に江戸時代の旅籠を模してつくられた建物が佇み、とても落ち着き癒される場所です。

館内も風情のある木造風の建築で、有名な浮世絵「木曽街道・追分宿浅間山眺望」が出迎えてくれます。中に入ると、追分宿にある「枡形の茶屋 津軽屋」の一部を復元した囲炉裏のコーナーがあり、まるで江戸時代にタイムスリップしたような気分に。他にも追分節が聴けるコーナーなど、追分宿の魅力を存分に楽しむことができます。

常設展示と年2回の企画展

常設展示の内容は、「街道の歴史と文化〜追分の原始・古代から現代まで〜」というテーマのもと、縄文時代から昭和初期まで、主に軽井沢の西地区の歴史を紹介しています。

展示品は、追分宿の様子を紹介する資料や茶屋・問屋などで使われていた調度品、宿場のジオラマなど江戸時代のものがメインとなっており、その他にも、明治から昭和にかけて追分にゆかりのある文人たちの紹介や、1169年(嘉応元年)~1675年(延宝3年)の間に諏訪神社に奉納され、町指定の有形文化財となっている、「大般若経六百巻奥書」など、江戸時代以前の貴重な資料も所蔵しています。

 常設展の他に、企画展が年に2度開催されています。企画展では、江戸時代の旅の様子をテーマにするなど歴史を学べるものが多いそうですが、2021年には特別企画展として軽井沢に住んだフランス人版画家・浮世絵師である「ポール・ジャクレー展」を開催し、大変好評でした。

子ども向けの歴史体験講座も充実

春休みや夏休みには、小・中学生を対象にした体験講座を開催しています。勾玉作りや籠作り、縄文土器作り、はた織りなど、専門の先生の指導のもとオリジナルの作品を作り、持ち帰ることができます。小・中学生のお子さま連れのご家族は、ぜひ軽井沢町のウェブサイトなどで情報をチェックしてみてくださいね。

追分宿郷土館は地域の子どもたちとの関わり合いも深く、毎年小学校の遠足や歴史の体験授業で子どもたちが訪ねるとのこと。また、小学生を中心に追分節隊を結成し、追分節保存会会員の手ほどきを受け追分節を練習しています。軽井沢町最大級の夏祭り「しなの追分馬子唄道中」をはじめ、様々なイベントに出演するなど、地域の文化を育む拠点となっています。

追分宿でのおすすめの過ごし方

館長の伊藤さんに、追分宿でのおすすめの過ごし方を訊ねてみた所、「追分宿には江戸時代のものが沢山残っているので、軽井沢町追分区、しなの追分楽しませ隊発行のガイドマップを見ながら散策するのがおすすめです。また、堀辰雄など文人の足跡を探してみるのもいいですよ。」と教えてくださいました。

追分宿のガイドマップは、追分宿郷土館で手に入ります。こちらで歴史や文化を学んでから実際に追分宿を歩いてみると、倍楽しめること間違いなしですよ。ぜひ訪ねてみてください。

日本を代表する小説家・堀辰雄の文学記念

追分宿郷土館から旧中山道を500mほど西に歩いた所に、「堀辰雄文学記念館」があります。堀辰雄(1904-1953)は、昭和初期から戦後にかけて活躍した小説家です。若い頃から結核を患っていました。19歳の頃から毎年のように軽井沢を訪れていた堀は、ここ追分をはじめ軽井沢を舞台にした作品を多く残しています。

ちなみに、代表作のひとつである「美しい村」は、昭和初期の軽井沢の美しい村風景やそこに訪れる人々の新しいライフスタイルなどが描かれており、現在の軽井沢町観光協会の観光ビジョンのタイトルとして引用されています。

この「堀辰雄文学記念館」は堀辰雄が晩年の2年間を過ごした家の敷地に造られ、展示棟の他、辰雄が実際に暮らした住居や書庫、緑豊かな庭などを見学することができます。

また、堀辰雄文学記念館から100mほど西に歩いたところに江戸時代、大名なども泊まった脇本陣「油屋」がありました。昭和初期には堀辰雄、立原道造、加藤周一などが滞在し、多くの文学作品の舞台になった宿です。堀辰雄の代表作「菜穂子」「風立ちぬ」も、この油屋にて執筆されたと言われています。残念ながら昭和12年に焼失しましたが、その後、道向いに再建されました。現在は、アートギャラリーであり文化の発信地として話題の「信濃追分文化磁場 油や」となっています。

 美しい並木道に癒されて展示棟へ

移設された追分宿本陣の裏門

「堀辰雄文学記念館」に着くと、立派な佇まいの古い門が出迎えてくれます。こちらの門は追分宿本陣の裏門で、平成18年にこちらに移築されたとのこと。本陣の裏門をくぐった先に浅間石で造られた堀家の門があり、管理棟まで道のり、辰雄も愛したという美しい並木が左右に広がっています。門を背に、左側の楓並木は親交のあった詩人・室生犀星(むろうさいせい)から贈られたもので、右側の落葉松並木は妻・多恵が植えたものです。

並木道

展示棟では、辰雄の生涯に触れながら、当時の原稿や書籍、愛用品などを展示しており、管理棟での企画展は都度、テーマによって内容が変わります。今回の取材時では、20223月までの企画展「矢野綾子生誕110物語の小径へ風立ちぬと堀辰雄」が開催されていました。

堀辰雄文学記念館_展示棟

有名な小説「風立ちぬ」が生まれた昭和初期の軽井沢の様子や、作品のモデルとなった婚約者・矢野綾子(婚約中に結核により死没)と過ごした日々の記録や葉書など貴重な資料が展示されており、とても興味深く見ることができました。また、辰雄と綾子の心と心のやり取りがまさに小説「風立ちぬ」の主人公たちと同じで、心を打たれました。

管理棟の奥には広い庭があり、そこに点在する旧住居や書庫、文学碑なども必見です。旧住居には辰雄が庭をゆっくり眺めたであろう椅子が置かれています。ここで療養生活を続けながら生前どんなことに思いを馳せていたのか。想像するととても感慨深いものがあります。

堀辰雄文_旧住居

辰雄の希望で建てられたという書庫も、素朴でありながらも趣のある建物です。

書庫

完成後わずか10日で辰雄が亡くなってしまったため、数々の蔵書は妻の多恵によってきれいに棚に収められました。辰雄が所有していた国内外の文学作品から哲学、宗教学、民俗学、美術など大変幅広いジャンルの蔵書が収納され、亡くなる前に棚への並べ方をすべて指示していたとのこと。辰雄の本に対する愛情がうかがえる素敵な空間です。

実際の本棚

展示棟は辰雄の死後、多恵が住んでいました。現在は、常設展示室となっています。

常設展示室

文学作品のこれから

こちらの文学記念館を訪れる層としては、年配の方を中心とした観光客の方が多いそうですが、中には堀辰雄文学のファンの方がリピーターとして何度も訪れるとのこと。若い世代の読書離れが進む現代において、「次世代に堀辰雄の魂をどう繋いでいくか、ということが課題です。」と、学芸員さんが話してくださいました。

中でも、「風立ちぬ」はジブリ映画の発想の起点となったことでも有名です。この映画は堀辰雄の小説と実在したゼロ戦設計者として有名な堀越二郎を混ぜて創り上げた主人公の物語であり、小説「風立ちぬ」のオマージュといえる作品です。この映画を機に若い世代が堀辰雄に興味を持ち、この文学記念館も来場者が増えたそうで、様々な形で堀辰雄をはじめとする文学作品の魂が受け継がれていくといいですね。

また、こちらの記念館では企画展の他、「野いばら講座」をはじめとしたイベントやコンサートなどが定期的に開催されており、様々なきっかけから文学の世界に触れられる機会を設けています。

文学に触れて新しく自分の世界を広げてみるのもいいですよね。「書物の新しいページを1ページ、1ページ読むごとに、私はより豊かに、より強く、より高くなっていく」という読書にまつわる有名な言葉もあります。堀辰雄の足跡をたどり、緑豊かな庭でゆったりと時を過ごしながら辰雄の描いた世界を想像してみる、そんなひと時を過ごしに堀辰雄文学記念館をぜひ訪れてみてください。

軽井沢町・追分宿の学びはいかがでしたか?追分宿にはこの他にも歴史や文化に関する学びがたくさんあります。ぜひ、追分宿入口から歩いて散策してみてくださいね。

今回紹介した場所

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