浅間山南麓、長野県北佐久郡御代田町にある浅間山真楽寺は真言宗の寺院で、587年日本の31代天皇である用明天皇の勅命により、当時大噴火していた浅間山の鎮火を祈願するために建立されました。甲賀三郎の龍神伝説の地としても知られており、聖徳太子や源頼朝、松尾芭蕉も参拝したと伝わる有名な寺院です。
甲賀三郎伝説発祥の池 大沼の池
真楽寺の正面から入り参道を進むと、町の有形文化財に指定されている仁王門があります。両脇に仁王像が安置されており、睨みを利かせた逞しい姿で寺の境内を守っています。向かって右が阿形(あぎょう)、左は吽形(うんぎょう)といい、相手の意思を汲み取り一致させるという「阿吽の呼吸」はここからきている言葉です。阿形像は物事の始まりを表現した「阿」の口の形をしており、吽形像は「吽」と口を結び物事の終わりを表現しているそうです。仁王像の口元をよく見てみると違いがわかります。
門をくぐり、右手には甲賀三郎伝説発祥の池「大沼の池」があります。諸説ありますが、ある一説では、近江(滋賀県)に住んでいた三郎が、後継者問題の末、兄たちにだまされ、深い穴に落とされ地底の世界から這い出すため明るい光を目指したところ、たどり着いたのが大沼の池だったそうです。その時の三郎の姿は蛇体(龍)になっており、しばらく大沼の池に住んでいましたが手狭になったため、さらに大きな池を目指して蓼科山の双子池へ、そして最後は山を越えて諏訪湖に行き諏訪明神となり今でも湖底にいるそうです。冬の時期の御神渡りの現象は甲賀三郎の蛇体が寝返りうった時にできるとも言われています。
蛇体の姿が大沼の池から静かに頭を出している様子も見ることができます。夏に行われる「龍神まつり」では、真楽寺で龍神の開眼式をして魂を入れてからスタートするそうです。池の底の藻が見えるほど透き通った湧き水も大変美しく神秘的で、池の湧き水は、長野県内の優れた湧水の1つとして「信州の名水・秘水」に選定されています。
日本一大きい子育て地蔵!荘厳な雰囲気の建物の数々
美しい杉並木の参道から続く石段を上がると観音堂があり、その右側には町の天然記念物に指定されている樹齢千年を越えるという神代杉があります。長年この地を守ってきた巨木の杉の木は大変神々しく、歴史を感じずにはいられません。近くにいるだけでエネルギーをもらえるような気持ちになります。
さらに奥には長野県内に11基しか存在しない貴重な三重塔(長野県宝)も建てられています。この三重塔は高さ20.776m。1718年〜1751年までの間、33年をかけて建立された塔で、大日如来が安置されています。
真楽寺は天皇の勅命により建立されたお寺なので、本堂に皇室のシンボルである菊花紋章が本堂の屋根の中心に刻印されています。取材時は屋根の銅板を葺き上げてすぐというタイミングで、鮮やかな赤燈色の状態の屋根を見ることができました。こちらで御朱印もいただけるそうなので、参拝の際はぜひ立ち寄って見てくださいね。
参道を登った小高い丘の上には、高さ約20mという日本一大きい子育て地蔵があります。子どもたちの健やかな成長を願い、寺の檀家さんや有志の協力によって建てられたそうです。真楽寺から眼下に広がる土地の子どもたちの成長を優しく見守るような佇まいのお地蔵様を見ていると心穏やかに幸せな気持ちになれますね。他に鐘楼や水分神社、牛頭観音などもあり、数々の歴史ある建物を参拝することができます。
源頼朝や松尾芭蕉ゆかりの史跡
境内には源頼朝や松尾芭蕉ゆかりの史跡もあります。
1193年、源頼朝が浅間山を狩り場として巻狩りを行っていた際、自身の42歳の厄除けに7日間毎日参詣したことから、真楽寺は頼朝厄除け観音との別称もあります。さらにその際に、庭で休んでいた頼朝が手にしていた梅の木の枝を逆向きに地上に突き刺して置いたため、下向きに咲く珍しい「逆さ梅」が咲くようになったという言い伝えもあります。境内にはその「逆さ梅跡」など頼朝に縁のある史跡も見ることができます。
江戸時代の歌人松尾芭蕉の句碑もあり「むすぶよりはや歯にしみる清水かな」の句が刻まれています。これは「澄んだ清流の水を手で汲んで飲もうとするが、口に入れる前に早くも歯に冷たさが沁みるような気分になる。」という意味の句で、涼しく豊かに湧き出す大沼の池を想わせる清々しい句です。
自然豊かな真楽寺
「春は真楽寺の桜が大変きれいに咲きます。ぜひお花見にもいらしてください。」と71代目古越住職。お寺の北側にある浅間シャクナゲ公園のシャクナゲも4月下旬から咲き始めるそうなので、サイクリングやドライブをしながらお花見もおすすめです。さらに夏はヤマユリ、秋は紅葉が美しく、冬は雪が降ったあとの静寂な雰囲気と大沼の池のコラボレーションが好きという方もいるようです。自然豊かな境内の散策も楽しめそうですね。
時代の変遷を見守り、地域の人々の心の拠り所として守られてきたお寺、真楽寺。ぜひ参拝してみてはいかがしょうか。